奏様より京浮小説
「え…?」
その知らせを受けた時、すぐには意味が分からなかった。
だって、彼は、アイツにとって―――
紅 花
京楽は、雨の降る中を走っていた。
着物や編み笠が濡れる事も厭わずに、ただまっすぐに。
海燕の訃報が届いたのは、今しがた。
虚に身体を乗っ取られ、そして部下の朽木ルキアの手により亡くなった、と―
その報告を聞いてすぐ、京楽は隊主室を飛び出した。
<強制終了(笑)>
早く。
早く。
長い間となりにあった霊圧が、今は何処か頼りなく感じられる。
きっと、彼は自分を責めているのだろう。
海燕に、出撃許可を出した事。
朽木ルキアに、海燕を討たせてしまった事。
――――何も出来なかった、自分を。
だけど、責任感の強い彼は、部下の前で弱いところは見せないだろう。
一人で、ただ、この雨の中を…
「浮竹。」
漸く見えた、その身体を、京楽は背後からぎゅっと抱きしめた。
たかだかコレだけの距離で不自然な程乱れた呼吸を悟られないよう整えながら。
出来るだけいつものように軽い、しかし少し困ったような声で浮竹に話しかける。
「何やってんだい、お前さん。こんなに濡れちゃって…病が悪化したらどうするんだい?」
「大丈夫だ。…それよりお前こそどうして此処にいる。」
音だけを少し後方へ向けて、怪訝そうに問いかけてくる浮竹の姿は、いつもと変わりなく。
…だからこそ、京楽にしてみれば逆に痛々しかった。
「大体お前はまだ就業時間だろう。また抜け出してきたのか?伊勢が探しているそ、きっと。」
「…浮竹。」
「そういえばそろそろ六番隊への書類の提出日だとか言っていなかったか?白哉はそういうのに厳しいから早めにしないと…」
「浮竹っ!」
いつだって、君はそう。
「…あのさ、浮竹。」
なんでも一人で抱え込んで、その傷を誰にも見せないように覆い隠す。
でもね。
「…一人で、泣かないで―――」
小さく、浮竹の肩が跳ねた。
それを見逃さずに、京楽更に言葉を重ねる。
「志波くん…殉職したんだってね、キミの目の前で。彼はキミの片腕だったし…泣きたいなら、泣いて良いから。」
泣くな、なんて言えやしない。
こんな冷たい雨に降られ、髪も服もぐっしょり濡れて、それなのに。
それすら厭わない程、悲しみに凍てついた心。
「…っ離せ京楽!」
しかしそんな京楽の意図とは別に、不意に浮竹が腕の中で暴れ始めた。
せっかく、このままなら一人で耐えられそうだったのに。
いつもそうだ、この男は普段はへらへらしているというのにいざという時はこうして自分に手を貸そうとする。
甘えてはいけない自分は長男で、そして病持ち。ただでさえ皆に心配をかけているのに。
――――――今此処で甘えたら、きっと自分は一人で立つ事が出来なくなるから。
「甘えてよ。」
そんな浮竹の心に反論するように、京楽は片手は身体に回したまま、もう片方を浮竹の顔、特に目元を覆うようにしながら後頭部を自分の胸板に押し付けた。
「大丈夫だよ、ボクはキミの傍から居なくならないから。だからもっと頼って、甘えて良いんだよ?全部浮竹一人で背負おうなんてしたらキミがつぶれちゃうだろう?」
優しく、言い聞かせるような口調でそういうと、京楽は雨に濡れた自分の前髪をうっとうしげに掻き揚げて小さく笑った。
自分よりも細いその人を、愛おしげに見下ろしながら。
「重い荷物なら、一緒に背負うからさ。今は…何も考えなくて良い、志波君の為に啼いてあげなよ…ボクの腕(ココ)でさ。
ただ、どこまでも優しいその声に。
浮竹は、声もなく涙を流した。
本当に辛いのは、朽木であり自分ではない。
そう、言い聞かせていたはずなのに。
「…お前のせいだぞ…っ」
「それでも構わないよ。」
こうもあっさり自分の虚勢を崩してしまう京楽に精一杯の悪態をついてみせるが、それもあっさりと受け止められる。
浮竹の涙を隠し、悲しみを流すかのように。
雨は…未だ降り続いていた。
* * * * * * * * * *
2007.01.25
奏様から頂いた京浮小説でございます!
突然の私のお願いに快く書いて下さってありがとうございました(礼)。
切なくて、でも愛おしさに溢れている美しいお話に感激ですvv
こんなに素敵な京浮を頂けて、私って幸せ者…v
本当にありがとうございました!